システム開発などのプロジェクトを進めていると、リソースが足りなくなったり、目標達成が危ぶまれたり、といった不測の事態が起こることは珍しくありません。それをうまくリカバーすることに失敗すると、いわゆる「炎上」状態に陥ってしまいます。 このような「炎上」をどのように防げばいいのか。プロジェクトマネジメントの経験が豊富なグローバルウェイ取締役ビジネスアプリケーション事業本部長の梁行秀(やな・ゆきひで)さんは「雨の匂い」に敏感になることが大事といいます。
お話しを伺った人
梁 行秀さん
もちろん、ありますよ。ただ、数多くの経験を積むことで、大きな炎上を未然に防ぐ力も身につきましたので、必要な経験だったと思っています。
これは、ある程度経験があるエンジニアなら感じたことがあると思うのですが、プロジェクトに参加した途端、匂いを感じるときがあります。世に言う「ヤバい匂い」です。 それを私は「雨の匂い」と呼んでいます。雨が降る前に、なんとなく独特な匂いを感じることがありますよね。あれはペトリコールとゲオスミンという土中の化学物質が、風にのってやってくるのだそうですが。 それと同じように、開発プロジェクトについても、リスクがまだ顕在化していないはずなのに、なんとなく炎上する匂いを感じることがあるのです。
まあ、焦げ臭いといってもいいですけど(笑)。だいたい炎上するプロジェクトに共通していえることは「コミュニケーション不足」と「メンバーの責任感の欠如」ですが、炎上を防ぐために、何を通じてそれを感じ取るか、ということが大事だと思います。
例えば、プロジェクトを開始するときの「キックオフ」の資料がきちんと作られていなかったり、誰でも見られる状態になっていなかったりしたときには、「あれ、大丈夫かな」と思いますよね。 その資料にスケジュールや連絡先、報告サイクルなどの「開発スタート時の確認事項」がきちんと整理されていなかったり、「スケジュール管理シート」がきちんと更新されていなかったり、といったことがあると、かなり不安になります。
もちろん、一番重要なのは、各メンバーが責任感をもって自分の持ち場の成果を出すことです。しかし、それができていない場合であっても、きちんとマネジメントが行われていれば、いち早く問題を把握し、原因をつかんで対策を打てるはずです。 とはいえ、どれもこれも、教えることは非常に難しいんですよね。いろいろ考えて、自己啓発の研修を受けてもらったり、新しいコミュニケーションツールを導入してみたりしても、絶対に問題が起きなくなるかというと、なかなかそうはならないです。
「テクノロジー以前の問題」だからでしょうね。テクノロジーのことであれば、教えることもしやすいし、エンジニアも意識を高く持って取り組むのですが。 結局、炎上のパターンもさまざまですし、やはり数多くのプロジェクトに携わりながら、複合的、長期的に学んでいくものかもしれません。
私の経験上、プロジェクトの成功は「始め半分」だと考えています。「段取り」といってもいいのですが、プロジェクトを始める前にいかに入念な準備をしておくかが、最終的な成功を大きく左右するということです。 段取りだけでプロジェクトが成功するわけではありませんが、それなりの規模のプロジェクトが段取りなく成功することはまずありません。そして途中で炎上し、その火を消そうと思えば、準備の何倍ものコストとリソースが必要になります。
プロジェクトを始める前に、関係者が半日くらい集まって、プロジェクトの始まりから終わりまでの工程を確認し、その間に起こりうる出来事を想像して言葉にしてみることです。
そうです。当社は基本的にリモートワークで作業を行っていますが、こういう「声に出して確認するミーティング」のときは、顔をあわせて行うようにしています。リモートだと発言を躊躇してしまうことも起こってしまうので。 とにかくあらかじめ気になることを声に出しておくことで、自分やメンバーの頭の隅に残るので「そこは完全に想定外だった」ということを防ぎます。後になって「やっぱりあそこがボトルネックになったね」ということもよくあります。
とにかく「始め半分」です。キックオフミーティングはきちんとやりましょう。顔合わせと飲み会にしてはいけません。飲み会はプロジェクトが終わるときまで取っておきましょう。
終わらないプロジェクトはないです。数を重ねていくと、ああ、これでどうやらうまく行きそうだという「雨上がりの匂い」を感じることもできます。
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